連載 「海の名前」 2022年1月号


〜 運河 〜

運河は船舶の航行、水利、灌漑、排水、給水、などのために、陸地を掘って造られた人工的な水路のことで、ヨーロッパではローマ時代から産業革命まで、網の目のように張り巡らされました。特に大型船舶の航行する、ユトランド半島の付け根を横断するドイツのキール運河や、ギリシャのペロポネソス半島の根元を横断するコリントス運河、地峡を横断するスエズ運河やパナマ運河などが代表です。内陸運河には河川間を結んで水路網を広げるものと、河川に並行して、または河川の通航困難な場所にバイパスを作り、内水面のみで沿岸域をつなぐ沿岸運河など様々です。ヨーロッパにおける内陸運河では、ライン川やドナウ川などの大河川による水運が盛んで、河川交通の連結の役割を果たし、ピレネー山脈・アルプス山脈以北の大河川はほとんど運河によって接続され、大西洋からバルト海、黒海に至るまで河川・運河の水路網の通航が可能です。フランスは川と運河を通って国内をほぼ一周でき、イギリスにも多数の運河が掘られ、産業革命時代に馬車に代わる大量輸送手段として活躍しました。また、ベニスやアムステルダムなどのように市内に網の目のように運河を張り巡らせ、道路に変わる交通網を作る都市も多いです。運河網の発達は安定した大量輸送により産業革命を推進する大きな力となったが、鉄道網が張り巡らされ、道路が各地を結ぶと、内陸運河の重要性は急速に低下していきました。運河には、高低差のない2点を結ぶ水平式運河と、標高差のある地点を結ぶ運河の2つの種類があり、パナマ運河は高低差のある水路を閘室と呼ばれる領域に仕切って船を昇降させます。アメリカにおいても、ミシシッピ川や五大湖に連絡するものを中心にいくつかの運河が生き残り、重量のあるものや危険物・廃棄物などが主に輸送されています。わが国でも、道頓堀や江戸の閘室を持った小名木川などたくさんの運河が掘られました。

<関連書籍>
「海の名前」(東京書籍刊)中村庸夫:著・写真


アムステルダム

キール運河

スエズ運河


ベニス

パナマ運河

コリントス運河





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